2009年11月30日月曜日

定義の展開

例えばなのですが,PESを実現するには,理想的には以下を考えることが必要ではないでしょうか.

1) 失われた生態系サービスを(例えば開発した企業が)払うために,PESの市場を作らなくてはならない


2) 生態系サービスに関する市場は,まぁない(環境関係の大半(二酸化炭素の排出許可証取引などは別として・・・)はそう)


3) どうしたら,市場取引と生態系サービスの価格を決めることができるだろう・・・



生態系の市場って本当にできるのでしょうか.価格を示すにはどう考えればいいのでしょう.

一般的に,環境に関わるもの(生態系・ゴミ問題・大気汚染など)には市場がなかなかできないものです.環境を取引する市場がすっごくとってもほんとに少ないから,どうしても分かりやすく儲かる商品を重視してしまい,環境問題がないがしろになることが本当に多いです.経済学では外部不経済として扱い,なんとかしようとしています.

価格がつきにくい,環境や生態系・・・.とりわけ,PESを実現するためには,いろんな思いをしっかりと考えてほしいと考えるのは,私だけではないと思います.だからこそ,以下が必要になるのではないでしょうか.

1) PESを実現するために,例えば開発で失われる生態系サービスの経済価値を示さなくてはならない


2) 経済価値が分かって,初めて「生態系サービスの価格」が決まる


3) 「生態系サービスの価格」を中立的な第3者が計算して,それを参考に,開発する時に企業が払わなくてはならない金額が決まる


もちろんそう簡単にできる話ではありません.いいか悪いかも,それぞれの立場で考えるべきです.とりあえず,ここで考えたいのは,「生態系サービスに価格をつけなければPESを十分に実行できないのではないか」ってことに集中して,考えてみませんかってことだけです.


そこで,「もし生態系サービスの価格を決めなくてはいけない場合,どうすれば?」って話を考えたいと思います.

例えばですが,兵庫県神戸市を例に挙げて,「六甲山の生態系サービスって?」ということを考えたいと思います.読んでいただいている皆さんはそれぞれ思い描く自然環境によみかえてください.また,全くの余談ながら私は神戸っ子でして,六甲山が大好きで父とよく登ってました.

六甲山の生態系サービスっていろいろあります.今は特に紅葉したら,とってもきれいです.山に登ることが好きな人には,今の時期はたまらないでしょう.実際,遠景を絵に描いたり,登りながら植生を見たりするのは,子供心にたまらないものがありました.そんな体験って,誰しもどこかであるんじゃないでしょうか.

でも,ご存じない方もいらっしゃると思いますが,六甲山から街の中にイノシシがごくたまに降りてきます.

丹波地方は「牡丹鍋」にしますよね.特記するほどおいしいものです.同時に,適切な数を維持しなくては,人とイノシシが「持続可能な形で」共存できないかもしれないと,直感で想像しています.皆さんはどうですか?

これらを,生物多様性と絡めると,実はそんなに簡単に足し算と引き算で生態系サービスを計算できないよ,もし足し算と引き算をするにはこう考えなくてはいけないよっていったのが例えば Wallace (2007) だと思います.

生態系サービスは,人の社会から考えられたアイディアと思っていただいてもいいと思います.以前は「多面的機能」と言われて,主に生物や生態の方面から定義されていたように,個人的には記憶しています.

「多面的機能」についての解説は以下をどうぞ.

http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sesakusyoukai/tamennteki/tamentekitop.html

とりあえず先ほどのお話に戻りましょう.森林を守って,いろんな影響(森林浴・紅葉・イノシシ)があり,しかもその影響はお互いに複雑に絡み合っていると想像できませんか?

紅葉がきれいで,森林浴に適した所に登山する人が多くて,そんな方のお弁当の匂いに惹かれてイノシシからこんにちは・・・.20年前に登山した時は,意外にありました.それに比べて,今はだいぶ共存しているのかもしれませんが,立場で意見は変わるでしょうね・・・.

PESを実現しようとして,取引価格を決めなければならないのに,例えば森林を守ったときの「値段」を調べようとしても,いろんな影響なり生態系サービスがとっても複雑に絡み合っていたら,単純な足し算や引き算でその「値段」を決められるのでしょうか?

多分ですが,とっても難しい話になると思います.ですので,「もし単純な足し引きでPESのお値段を決めるとしたら」と考えて,足し算と引き算がしやすいように考え直したのがWallace (2007) といえます.

ただ,どうすべきかは,なかなか難しいことのようですね.機会があれば煮詰めていきたいと思います.

詳しく知りたい方は原典を当たってください・・・というのはこのブログの趣旨に沿わないので,とりあえずは以下のお話だけ聞いていただけますか?もしかすると今後にお話しするかもです.

Wallace (2007) に限らず,今までの生態系サービスの考え方に疑問を持っている人はいっぱいいます.ですが・・・


「今までの生態系サービスの考え方の歴史とか流れ」があって,「流れも尊重しようよ」「そうしなかったら,昔と今を比較して,よくなってるかわからないじゃない!?」


と,言うのももっともですし,大切なことだと思います.


でも,さっさとしなければならないことなんです.

あまりだらだらしていられませんし,名古屋市で行われる生物多様性条約(CBD: Convention of Biological Diversity)の第10回目の会議など,すでにせまっています.

http://www.cbd.int/

気候変動枠組条約(http://ja.wikipedia.org/wiki/気候変動枠組条約)の15回目の会議(デンマークであるそうです.)の方が時期も早く,いろんな意味で注目度も多いのでしょうが,「CBDは日本で行われるのに」あまり報道されていません(洞爺湖で行われた国際会議も,直前までご存じなかった方は多いのではないですか?).

いわゆる「温暖化」のお話と実は平行で問題視されていて,しかも関わっている国の数は同様なのに,存外に注目度が低いように感じられます.

「温暖化」と「生態系保全」.少なくとも同様に大きく取り上げていきたいものですね.

Wallace K. (2007) Classification of Ecosystem Services: Problems and Solutions, Biological Conservation, Vol.139, pp.235-246.