2009年11月30日月曜日

PESへの架け橋

まず,生態系サービスの区分けに関しまして,訂正です.

「保全サービス(Preserving Services)」というのを探してみましたが,見つけられませんでした.
もし, 生態系サービスの意味で,保全サービスの説明をご存知の方は,コメントをください.


さて,今回は,「生態系サービスへの支払(Payments for Environmental / Ecosystem Services: いずれもPES)」というトピックです.Engel et al. (2008) *1の定義からスタートしましょう.

1.自発的(強制ではない)取引であること
2.生態系サービスや,それを支える土地の利用が,「はっきりと」とらえられていること
3.生態系サービスに一人以上の売り手と買い手がいること
4.売り手は生態系サービスを必ず供給すること


これだけでは何かわかりにくいですよね・・・.Engel et al. (2008) から,例を考えてみましょう.まず場面の設定です(設定を「ものすごく」簡単にしていますので,詳しく知りたい方は原典をご覧ください).

1.川があって,上流にも下流にも人が住んでいます.
2.上流側には森があるとします.
3.下流側は,上流の森のおかげで,きれいな水を得ることができます.


このまま幸せにいけばいいのですが,上流の人が,森の木をすべて切ってしまって,畑に変えなければ,生きていけなくなりました.ここで,上流にあった森は,「きれいな水を下流に供給する」という生態系サービスを提供していました.種類としては,供給サービスと考えていいでしょう.


上流の人は,生きていくために仕方なく,森を切り開いて,食糧を作り,それを食べていきます.森を切り開いたことで,「食糧」というメリットを得たわけです.


一方,下流の人は,きれいな水を飲めなくなりました.今まであった生態系サービスを失ったことになります.


ただし,他の活動を無視してください(「上流の人は飲み水をどうしているんだ?」「下流の人はどうやって食べているんだ」ということも,ここでは考えません.疑問がある方は,すいませんが原典を読んでくださいね・・・).上流にはメリット,下流はデメリットだけがあります(という設定で話を進めます・・・わかりやすさのためと,意図を汲んでいただければ幸いです (;_;) ).


ここで困ったことに,上流の人は,もう森を復活させる余裕がないようです.この状態で,上流も下流もなんとかやっていくしかありません.


そこでPESの出番です.下流の人は,(設定上!)せめて「上流が減らした生態系サービス(きれいな水の供給)」 を補償してほしいと考えるでしょう.損ばかりしているのですから.それに対して上流の人は,(設定上!)「食糧」という得ばかりしています.


そうこうしているうちに,(どんな形でもいいんですが,とりあえず・・・)「仲裁する人」が出てきて,話し合いをしようと言いました.「下流の人が損した分,上流の人が『きれいな水の供給』にお金を出してはどうだろうか?」なくなった生態系サービスと同様の浄水場を作ってはどうか,というのです.


例えばなのですが,これがPESです.「失われた生態系サービスを(どのような形であれ)補償するためにお金を払う」 と考えてよいと思います.


でも,実際,森を全部切ってしまう代わりに,浄水場を作られても・・・と思う方が多いと思います.私もそうです.少し単純化しすぎてしまいましたが,ここで,前回の「ミレニアム開発目標」を思い出してください.(ちなみに,ほとんど説明していませんでしたが,「ミレニアム開発目標」は,「開発をする言い訳」ではありません.)


貧しい国や人にとって,先進国から「熱帯林が減ってるから,皆とにかく守れ」 と言われても,そうそう納得しないことは想像できます.当然守られるべき,「たくさん食べたい」「最低限でもいいからお金がほしい」という思いが,まずあるからです.ですので,「すべての開発」を止めることはできません.同時に,「すべての生態系を守る」ということができないのも,想像できると思います.


そこで,以下のような考え方をしてはどうでしょうか.

1.持続可能(長く続けられるってことですね)な形で生態系サービスと開発を両立させる道を見つける.
2.開発した人は,それによって失われた生態系サービスの価値の分だけお金を出して,サービスを回復/補償する(生態系を回復するとは限りません).
3.以上のために「生態系サービスの経済価値」を調べるべき(生物多様性に,必ずしも値段を付けるわけではなくて・・・).


単純化しすぎて,間違いを含んでいるかもしれませんので,十分に注意していただきたいのですが,ミレニアム開発目標の本質や,PESのイメージをつかむのは,ここから始めた方が,今後の展開もわかりやすくなると思います.

イメージをつかんでいただくように伝えることは難しいですね.皆さんはそれぞれの立場で行っていらっしゃると思います.

このブログでは,「ちょっと専門家の方からみると問題かな」ってとこまで,踏み込んでしまうかもしれません.

ただ,「~とおもんですけど・・・」などの表現で,そういうことは投げかけるようにしますので,気が向いたらそれぞれで議論ください.


【参考文献】
*1: Engel S., Pagiola S. and Wunder S. (2008) 'Designing Payments for Environmental Services in Theory and Practice: An Overview of the Issues', Ecological Economics, Vol.65, pp.663-674.