ネットのいろんなお話を見ていると,「生物多様性と生態系サービスはどう違うの?」という質問があるので,ここで考えておきましょう.実際は専門のみなさんでも難しいことだと思います.まずは以下の考え方を提示したいと思います.
「生物多様性が生態系サービスを支えているんじゃないかな」
Nunes and van den Bergh (2001) では,生物多様性と人々の満足感を,4つの方向性でまとめています.
1)生物多様性⇒生態系⇒人の満足感
2)生物多様性⇒生態系⇒種の多様性⇒人の満足感
3)生物多様性⇒種の多様性⇒人の満足感
4)生物多様性⇒人の満足感
この研究の良し悪しは,考えていかなくてはなりませんが,上記の分け方で感じることはあるはずですよね.
と,言うことで,とりあえず1)から4)を自分なりに簡単に言ってみたいと思います. Nunes and van den Bergh (2001)を参考にすると以下のように整理できるのではないでしょうか.
1) = 生態系機能(人にとって役だっているとは実感できにくいもの)・サービス(人にとって役立っていると実感できるもの)が人を満足させる
2) = ハビタット(生物が棲む居住環境のこと)が人を満足させるので,景観の多様性を考えるべき
3) = 遺伝子から得られる科学的知見の多様性や種の数の多さが人を満足させる
4) = 次世代に生物を遺すことのうれしさ(遺贈価値:Bequest Value)・生物を残しているとひょっとしたら医療などに役立つかもしれない期待感(オプション価値:Option Value)・そもそも生物がいるだけでうれしい(存在価値:Existence Value)
いろいろ言えることはあって,以下が私の思いなんですが・・・どうでしょうか.
1) 生物多様性が生態系サービスを支えていること
2) 生物多様性が人に及ぼす影響は,「生態系サービスだけではない」こと
生物多様性が生態系サービスを支え,その影響は生態系サービスだけではないことを,生物学・生態学・経済学の専門家が集まって,本気を出した例があります.それがChristie et al. (2006) です.
彼らが使ったカテゴリーを紹介しましょう. 「生物多様性」って何だろう? 彼らは,一生懸命に分かりやすい分類を考えました.以下にまとめます.
1) 大分類:「生物多様性」
2) 中分類:「生態学的な考え方」・「人間を重視した考え方」
3) 小分類:
「生態学的な考え方」⇒ 「Habitat Quality (生物が生きている生息域の質)」「Ecosystem Processes (生態系が果たす役割)」
「人間を重視した考え方」⇒「Rare, Unfamiliar Species of Wildlife (絶滅危惧種とか)」「Familiar Species of Wildlife (普通にいる動植物とか)」
生態系サービスは,すべての分類に関わっていると考えられます.
「あれ? じゃあ生態系サービスって何なの?」と感じた人は,とっても真面目にこのブログを見ていただいてる人です.実際,とっても複雑に絡み合っていて,「Aという生物はBというサービスだけを持っている」とは言えないんです.
「これにも役立ってるし,これにもだし,あぁそれもそうだった」なんてことになってるみたいです. イメージがつきにくくって,大変です.ですので,皆で一生懸命考えなくてはならないことともいえると思います.
次は,生態系サービスという定義そのものへの反対意見を取り上げたいと思います.
Nunes P. and van den Bergh J. (2001) Economic Valuation of Biodiversity: Sense or Nonsense?, Ecological Economics, Vol.39, pp.203-222. Christie M., Hanley N., Warren J., Murphy K., Wright R. and Hyde T. (2006) Valuing the Diversity of Biodiversity, Ecological Economics, Vol.58, pp.304-317.