これ以降の章を一言でまとめてみます.
4章:有機農業促進の選択型実験
マーケティング分析の一つである選択型実験を用いて,環境負荷を減らせる有機農業促進に対して農家の皆さんはどのように考えているかを分析しています.有機農業は短期的に収入が下がるので,所得に拠ることがあると明らかにしています.また居住エリアも人々の考え方に影響していることがわかりました.
5章:仮想評価法による花粉媒介サービスの経済価値評価
仮想評価法(CVM: Contingent Valuation Method)で,ケニアの農業生産に不可欠な花粉媒介の生態系サービス保全に関わる経済的なメリットを計測し,貨幣価値化しています.
環境負荷に関する教育効果が重要であることを示す一方で,生態系サービスの対価として,労働などで支払う方がお金よりも受け入れられやすいことが示唆されています.
6章:自然保護地域の経済価値評価
観光客を制限している自然保護地域の利用料支払(利用税などもあるそうです)をアンケートで調査して計測しています.
どのように自然保護地域を利用し,地元の農業と両立していくか,ということについて,いくつかの政策的な対案があって,費用便益分析(CBA: Cost Benefit Analysis(英名はBenefit Cost Analysis))で費用対効果を検討しています.
7章:地下水涵養クレジット取引実験
オーストラリアのある地域では地下水が枯渇しているため,牧草などでおおうことによって地下水を快復させようとしているようです.
そこで,牧草などへの投資を行った土地所有者に,地下水涵養クレジットというものを発行して補償しようという試みが行われています.まだまだ検討しなければならないことだらけのようですが興味深い試みです.
意味は違うのかもしれませんが,カーボンクレジットをなんだか彷彿させませんか?
8章:生態系サービスのマーケティング
ここまでくると,PESというよりも営利活動ですね(^_^;)広報活動のことなども書かれています.消費者行動論体系に則って分析しているのでは,とみています.
9章:ビーチのレクリエーションにおける水質改善効果の経済価値評価
上にも出てきた選択型実験を用いて,トリニダードトバゴの住民と観光客に,水質改善プランを選んでもらうことで人々の考え方を見ようとしています.シュノーケルを使ってダイビングをする人としない人,その頻度によって環境対策への考え方が違うそうです.
10章:在来種の米に関するCVMとアグロバイオダイバーシティ
在来種の米を育てて生物多様性を守るか,それとも・・・というアンケートで経済価値を評価し,生態系サービスへの支払を推定しようとしています.
11章:旅行費用法(TCM: Travel Cost Method)によるイギリスの森林レクリエーション評価
実際に観光に行った人の行動データから,「時間をかけてわざわざいくからには,それなりの価値を見出しているのだろう」と考えて,観光地の経済価値を推定するのがTCMです.TCMでレクリエーションの需要関数を導き出しています.
12章:ツーリズムと生態系保全
旅行産業を活性化することで,森林伐採を止めようとする動きは各地であるようです.しかしながら,旅行産業はまだ,森林伐採への依存度を下げるに至っていないと報告しています.
と,以上のようにまとめますと,キーワードが見えてきます.
1)経済価値評価
PESは生態系サービスへの「支払」なので,大体いくらくらいなんだろうという疑問は当然でしょう.
2)取引
「支払」なので市場が生れるのですが,果たしてうまく機能するかどうか,ルール作りはどうすればいいかということも必要な検討事項です.
3)農業
生態系と密接にかかわっていて,なおかつ有効な方法をとれば農業から生態系保全が図れるのですが,短期的には農家さんの収入が減るので,どう制度設計するかにかかっています.
4)旅行産業
ツーリズムによる管理手法は各所で求められていて,どうすれば上手くいくか,という「ツーリズムマネジメント」は一層重要性を増していくと思います.
また時間が出来たら1つ1つ詳しく迫りたいと思いますが,生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity)の第10回会議(COP10)がもうすぐ名古屋であるので,とりあえずは以上でそれぞれの得意分野において考えていきませんか\(^o^)/
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
2010年5月9日日曜日
勢いで第3章
この章では,インドのBhoj Wetlandを事例として,生態系サービスの供給側と受け手側でどのように交渉すべきか,そのために必要なものは何かを明らかにしています.
使っているのは,制度分析と開発(IAD: Institutional Analysis and Development)という方法で,現状を「交渉に使用されるルール」「コミュニティの特徴(属性)」「自然界の属性」の3つに分類していって,どんな影響があるかを書きあげていこうというものだそうです.
彼らが強調しているのは,外部者(External Actor)の存在です.
Bhoj Wetlandは,水質汚染と沈泥で,水を蓄えておく容量(キャパシティ)がどんどん少なくなっているそうです.それによって,生態系破壊はもとより,洪水などの地域影響,健康影響も起こるかもしれません.
原因として目されているのは,Bhoj Wetlandに流れ込んでいる川の上流で富栄養化や農薬流出,あと土地の浸食が挙げられています.
流域管理,というのですが,上流と下流とで利害関係が生じるのは,Bhoj Wetlandに限った事ではないようで,本事例もかなりややこしいことになって,交渉のテーブルに着かせるのが一苦労のように見受けられます.
そこで,「誰が」「どこで」「何を」「どの程度」「どうしているか」を,IADの枠組みに乗っけて整理したところ,NGOなどの第三者的な外部者なくしては上手くいかないこと,利害関係者はむしろ互いに協働するつもりでいること,お互いにアクセス可能な制度・施設などがあればもう少し利害関係者の行動パターンも変わりうることが示されています.
第三者機関というのはどの分野でも重要なようです.実際はなかなかうまくいかないのかもしれませんが,交渉のテーブルを設けることは,生態系サービスの損失にも有効なようです.
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
使っているのは,制度分析と開発(IAD: Institutional Analysis and Development)という方法で,現状を「交渉に使用されるルール」「コミュニティの特徴(属性)」「自然界の属性」の3つに分類していって,どんな影響があるかを書きあげていこうというものだそうです.
彼らが強調しているのは,外部者(External Actor)の存在です.
Bhoj Wetlandは,水質汚染と沈泥で,水を蓄えておく容量(キャパシティ)がどんどん少なくなっているそうです.それによって,生態系破壊はもとより,洪水などの地域影響,健康影響も起こるかもしれません.
原因として目されているのは,Bhoj Wetlandに流れ込んでいる川の上流で富栄養化や農薬流出,あと土地の浸食が挙げられています.
流域管理,というのですが,上流と下流とで利害関係が生じるのは,Bhoj Wetlandに限った事ではないようで,本事例もかなりややこしいことになって,交渉のテーブルに着かせるのが一苦労のように見受けられます.
そこで,「誰が」「どこで」「何を」「どの程度」「どうしているか」を,IADの枠組みに乗っけて整理したところ,NGOなどの第三者的な外部者なくしては上手くいかないこと,利害関係者はむしろ互いに協働するつもりでいること,お互いにアクセス可能な制度・施設などがあればもう少し利害関係者の行動パターンも変わりうることが示されています.
第三者機関というのはどの分野でも重要なようです.実際はなかなかうまくいかないのかもしれませんが,交渉のテーブルを設けることは,生態系サービスの損失にも有効なようです.
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
ついでに第2章も(*^_^*)
続いて第2章です.
この章は研究事例が豊富で,なかなかまとめにくいので,まずは本当にざっくりと書いてみます.
公平性という言葉はFairnessに対応します.それに対して,「衡平性」という言葉を使う場合があります.これはEquityに対応します.
本書に従って,衡平性の定義と問題意識をまとめてみましょう.
1) 機会の衡平性
PESスキームにアクセスするための要件とは何なのか
2)結果の衡平性
貧しい人は豊かな人と同様にPESから恩恵を享受できるだろうか
3)能動的識別
豊かな人よりも貧しい人により恩恵を与えるスキームなのか
4)プロセス
貧しい人々も参加できるものか
とりわけ貧しい人々に関わる衡平性が問題になるのは,例えば以下のような理由に拠っています.
1)生態系サービスに所有権が設定しにくい
2)持っている技術が十分でない(産業・市場メカニズムとも)
3)市場の情報が少ない
4)市場へ参加しない・できない
5)十分な通信設備がない
6)契約に関わる諸制度が柔軟性を欠いている
7)最初に資産を持っていないと参加しにくい
実際にコスタリカで1995年にPESが導入された際に起こったことを見てみましょう.
1)制度:燃料税を集めて森林保全
2)保全面積:原生林16,500ha, 持続的森林経営2,000ha, 植林1,300,000haなどに寄与.
3)かかった費用:80,000,000US$ (当時の日本円で83億円強)
4)生じた問題:土地を持たない人が,持っている人の土地に不法居住していた(スクワッターと言っています).スクワッターは最も貧しい人々で,環境に負荷を与えやすい産業で働いていた(伐採したり,炭を作ったり・・・普通にいそうなものなのですが・・・).PESと森林保全プログラムが始まった途端,彼らは厳しく罰せられた(!?).
貧しい人々からさらにその財産を差し押さえてしまったのは,一重に法制度の未整備からであると彼らは主張します.
また,分配問題について,オーストラリアでの興味深い事例が紹介されています.
BushTenderという現生の植生を保全するための制度がヴィクトリア州で行われました(2002年より前のようなのですが・・・).
BushTenderにおいては,土地の所有者が行うべき保全活動計画を策定,政府と共同でその費用などから保全される生態系の付値を行います.
土地所有者は複数いるので,付値もそれぞれ異なり,最終的にはオークションを自然資源環境局が行って,生態系サービスの価格を決定するようです(分かりづらくてすいません・・・私もあまり分かってないので原典にあたろうかと・・・).
付値は保全費用と比例するので,同じ生態系サービスの質と量を確保できるのに,保全費用がかかってしまう方の土地はその分生態系サービス価格も高くなります.
とすると,保全しにくい土地を持っている人ほど大変そうな気がします.同じだけのサービスを確保するために,より価格の安い(したがって保全コストも低い)方へ行こうとするのは世の常です(安くてうまいものを買いたい・・・).
ですが,人々は政府当局の行うモニタリングなどが実に「公平」であると捉え,上記のオークションは自発的に行われたそうです.
メキシコの例も特集されています.
世界で2番目に森林破壊が進んでいるとみられているメキシコでは,2000年代に入ってPSAH (The Payment for Hydrological Environmental Servicesらしいんですが,個の略称はスペイン語かな・・・)が導入されました.地権者に対して国から保全対策への援助が出る,という格好です.
自然発火などで失われたところもあったようですが,土地利用の変化による破壊は防ぐことができたとのことです.
以上の事例を紹介しつつ,この章では多くの「分配問題のための考え方」を紹介しています.この章のテーマも,やはりPESの衡平性です.ざっといくつか列挙します.
・'No envy' principle (「うらやましがらない」原則):みんな同じ負担,同じ恩恵
・'Just deserts' principle(「功罪ある人だけ」原則):次の世代に持ち越さない
・最低水準原則:最低水準の所得ってなんだ,という問題あり
・予防原則:被害をひどめ,恩恵を少なめに見積もっておいて,貧しい人への影響を重点的に対策.
他にも汚染や保全の権利はすべての国にあるとするところや,市場こそが公平性を確保できるという立場まで,色々です.本章でも,語りきっていない感がありました・・・(^_^;)
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
この章は研究事例が豊富で,なかなかまとめにくいので,まずは本当にざっくりと書いてみます.
公平性という言葉はFairnessに対応します.それに対して,「衡平性」という言葉を使う場合があります.これはEquityに対応します.
本書に従って,衡平性の定義と問題意識をまとめてみましょう.
1) 機会の衡平性
PESスキームにアクセスするための要件とは何なのか
2)結果の衡平性
貧しい人は豊かな人と同様にPESから恩恵を享受できるだろうか
3)能動的識別
豊かな人よりも貧しい人により恩恵を与えるスキームなのか
4)プロセス
貧しい人々も参加できるものか
とりわけ貧しい人々に関わる衡平性が問題になるのは,例えば以下のような理由に拠っています.
1)生態系サービスに所有権が設定しにくい
2)持っている技術が十分でない(産業・市場メカニズムとも)
3)市場の情報が少ない
4)市場へ参加しない・できない
5)十分な通信設備がない
6)契約に関わる諸制度が柔軟性を欠いている
7)最初に資産を持っていないと参加しにくい
実際にコスタリカで1995年にPESが導入された際に起こったことを見てみましょう.
1)制度:燃料税を集めて森林保全
2)保全面積:原生林16,500ha, 持続的森林経営2,000ha, 植林1,300,000haなどに寄与.
3)かかった費用:80,000,000US$ (当時の日本円で83億円強)
4)生じた問題:土地を持たない人が,持っている人の土地に不法居住していた(スクワッターと言っています).スクワッターは最も貧しい人々で,環境に負荷を与えやすい産業で働いていた(伐採したり,炭を作ったり・・・普通にいそうなものなのですが・・・).PESと森林保全プログラムが始まった途端,彼らは厳しく罰せられた(!?).
貧しい人々からさらにその財産を差し押さえてしまったのは,一重に法制度の未整備からであると彼らは主張します.
また,分配問題について,オーストラリアでの興味深い事例が紹介されています.
BushTenderという現生の植生を保全するための制度がヴィクトリア州で行われました(2002年より前のようなのですが・・・).
BushTenderにおいては,土地の所有者が行うべき保全活動計画を策定,政府と共同でその費用などから保全される生態系の付値を行います.
土地所有者は複数いるので,付値もそれぞれ異なり,最終的にはオークションを自然資源環境局が行って,生態系サービスの価格を決定するようです(分かりづらくてすいません・・・私もあまり分かってないので原典にあたろうかと・・・).
付値は保全費用と比例するので,同じ生態系サービスの質と量を確保できるのに,保全費用がかかってしまう方の土地はその分生態系サービス価格も高くなります.
とすると,保全しにくい土地を持っている人ほど大変そうな気がします.同じだけのサービスを確保するために,より価格の安い(したがって保全コストも低い)方へ行こうとするのは世の常です(安くてうまいものを買いたい・・・).
ですが,人々は政府当局の行うモニタリングなどが実に「公平」であると捉え,上記のオークションは自発的に行われたそうです.
メキシコの例も特集されています.
世界で2番目に森林破壊が進んでいるとみられているメキシコでは,2000年代に入ってPSAH (The Payment for Hydrological Environmental Servicesらしいんですが,個の略称はスペイン語かな・・・)が導入されました.地権者に対して国から保全対策への援助が出る,という格好です.
自然発火などで失われたところもあったようですが,土地利用の変化による破壊は防ぐことができたとのことです.
以上の事例を紹介しつつ,この章では多くの「分配問題のための考え方」を紹介しています.この章のテーマも,やはりPESの衡平性です.ざっといくつか列挙します.
・'No envy' principle (「うらやましがらない」原則):みんな同じ負担,同じ恩恵
・'Just deserts' principle(「功罪ある人だけ」原則):次の世代に持ち越さない
・最低水準原則:最低水準の所得ってなんだ,という問題あり
・予防原則:被害をひどめ,恩恵を少なめに見積もっておいて,貧しい人への影響を重点的に対策.
他にも汚染や保全の権利はすべての国にあるとするところや,市場こそが公平性を確保できるという立場まで,色々です.本章でも,語りきっていない感がありました・・・(^_^;)
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
K&M 第一章www
やっとまとめの作業に入ることができます(^_^;)
とりあえずは,素読して読みとれることを記します.
K&M第1章です.
1.PESがどこで求められているか
この本は,都市化の進んでいない地域(Rural)に焦点を当てています.都市化・人間活動の影響で,あまり都市化の進んでいない地域の有する生態系サービスが破壊されている,という構造は,あたかも先進国と途上国や,南北問題に象徴される「分配の不公平」ともいうべき状況をも生み出しているというところから彼らは語りだしています.
すなわち,被害を受けても補償されないRuralの住民に生態系サービスが失われていることを知らせて,認知度を高め,補償が適切に行われるスキームが必要であると.このスキームこそがPESなのです.
PESとは環境問題への対策だけではなく,実は貧困問題への対処にもなるんですね.
2.モラルハザードと御しがたい効果
というタイトルになってしまいましたが,別にフリーライダーのことを彼らは述べていません.彼らの通奏低音はここでも「公平性」であるようです.
「汚染者負担原則(PPP: Polluter Pays Principle)」に照らすと,「生態系サービスを損なったものがそれへの対価を負担すべき」となり,これは外部性を内部化する(市場メカニズムなどで環境問題を解消するとしておきます)PESでも同じです.
ただ,やむなく「環境に優しくない」生活を強いられている人々に,「何が何でも払え!!!」というのは倫理的にいかがなものか,ということが彼らの主張です.いくらPESが経済学的に効率性を達成できるとは言っても,どの範囲まで市場メカニズムを適用するかは,公平性の観点や法制度に照らして検討すべきであるとまとめています.
3.PESに関わる制約と限界
人々の土地利用が生態系サービスに影響を与えている,という「因果関係」が成立するかどうか・・・.
実はこの点が一番PES実現の障害にもなりえます.
気候変動ないし温暖化問題の議論を見ても分かるように,因果関係などなどに反対意見だって出てきます.ここではその反対意見の良し悪しについては触れませんが,生態系サービスが変化するのは,何も人間活動に限った事ではありません.
遷移,という言葉があるのですが,生態系は様々な影響を受けて変化していきます.ただそのスピードが近年あまりにも速いようなので,人間活動が大きく寄与しているのだ,という研究成果が多く出されています.
しかしながら,それでも分析における不確実性(確率分布すらわからない,何が起こるかわからない・・・こわい(;_;))は解決しきれないので,PESという制度も,因果関係を示したモデルが失敗するということも念頭において柔軟に作る必要がありそうです.
加法性(Additionality),と彼らは言っていますが,例えば以下のようなことを想像して下さい.
・山の上に土地を持っているAさん・・・
・Aさんは頑張って森を守っています
・AさんはPESを利用して森を守っている分を補償してもらおうとしました
・山の裏からBさんがやってきて木を切っていることがわかりました
・PESは利用できるでしょうか?
利用できません\( ̄ロ ̄;).
つまり,確実にAさんが森の生態系サービスを増加させていることが立証されたときにのみ,補償されます.PESによって補償されるのは,Aさん効果・・・じゃなくて加法効果(Additional Effect)が本当にあるかが問われます.
それを確実にするためには,Bさんのような人をあらゆる制度と同様,「監視(Monitoring)」する必要があります.
以上が彼らの例示するPESへの障害です.
4.研究上の問題点
PESの実現のためには,以下が必要ですが,とりわけ途上国では難しいとされています.
・土地利用の変化に関わるメリットとデメリット(費用対効果・トレードオフ・機会費用などがキーワードでしょうか・・・)
・生態系サービスの定量的評価
前者は,実際にお金が動くわけなので,土地利用を変化させる(例:森を切り開く)と誰にどんな影響があるかを明らかにしないと,正当化しにくいということが一例です.社会科学の専門分野だと言えます.
後者は,実際に生態系サービスはどの種類がどのくらいあるのか,ということです.「とにかくあるんですよ・・・」といくら言ったって駄目なので,「東京ドーム何個分の水を蓄えられます」とか明確さが求められます.自然科学の専門分野と言えます.
ぱっとまとめてみましたが,実際どれほど研究が大変か,ちょっとぞっとしないですね.
5.仕組みにまつわるエトセトラ
PESを制度化するうえで検討する事項として,以下も挙げられています.
・情報の偏りをできるだけなくす:情報が誰かに集中していると,その人が有利になりそうなのでやめようと.
・所有権問題,言い伝え,信念・・・:土地が関わるので,「非科学的」などと否定してはいけない.
今回は以上です.
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
とりあえずは,素読して読みとれることを記します.
K&M第1章です.
1.PESがどこで求められているか
この本は,都市化の進んでいない地域(Rural)に焦点を当てています.都市化・人間活動の影響で,あまり都市化の進んでいない地域の有する生態系サービスが破壊されている,という構造は,あたかも先進国と途上国や,南北問題に象徴される「分配の不公平」ともいうべき状況をも生み出しているというところから彼らは語りだしています.
すなわち,被害を受けても補償されないRuralの住民に生態系サービスが失われていることを知らせて,認知度を高め,補償が適切に行われるスキームが必要であると.このスキームこそがPESなのです.
PESとは環境問題への対策だけではなく,実は貧困問題への対処にもなるんですね.
2.モラルハザードと御しがたい効果
というタイトルになってしまいましたが,別にフリーライダーのことを彼らは述べていません.彼らの通奏低音はここでも「公平性」であるようです.
「汚染者負担原則(PPP: Polluter Pays Principle)」に照らすと,「生態系サービスを損なったものがそれへの対価を負担すべき」となり,これは外部性を内部化する(市場メカニズムなどで環境問題を解消するとしておきます)PESでも同じです.
ただ,やむなく「環境に優しくない」生活を強いられている人々に,「何が何でも払え!!!」というのは倫理的にいかがなものか,ということが彼らの主張です.いくらPESが経済学的に効率性を達成できるとは言っても,どの範囲まで市場メカニズムを適用するかは,公平性の観点や法制度に照らして検討すべきであるとまとめています.
3.PESに関わる制約と限界
人々の土地利用が生態系サービスに影響を与えている,という「因果関係」が成立するかどうか・・・.
実はこの点が一番PES実現の障害にもなりえます.
気候変動ないし温暖化問題の議論を見ても分かるように,因果関係などなどに反対意見だって出てきます.ここではその反対意見の良し悪しについては触れませんが,生態系サービスが変化するのは,何も人間活動に限った事ではありません.
遷移,という言葉があるのですが,生態系は様々な影響を受けて変化していきます.ただそのスピードが近年あまりにも速いようなので,人間活動が大きく寄与しているのだ,という研究成果が多く出されています.
しかしながら,それでも分析における不確実性(確率分布すらわからない,何が起こるかわからない・・・こわい(;_;))は解決しきれないので,PESという制度も,因果関係を示したモデルが失敗するということも念頭において柔軟に作る必要がありそうです.
加法性(Additionality),と彼らは言っていますが,例えば以下のようなことを想像して下さい.
・山の上に土地を持っているAさん・・・
・Aさんは頑張って森を守っています
・AさんはPESを利用して森を守っている分を補償してもらおうとしました
・山の裏からBさんがやってきて木を切っていることがわかりました
・PESは利用できるでしょうか?
利用できません\( ̄ロ ̄;).
つまり,確実にAさんが森の生態系サービスを増加させていることが立証されたときにのみ,補償されます.PESによって補償されるのは,Aさん効果・・・じゃなくて加法効果(Additional Effect)が本当にあるかが問われます.
それを確実にするためには,Bさんのような人をあらゆる制度と同様,「監視(Monitoring)」する必要があります.
以上が彼らの例示するPESへの障害です.
4.研究上の問題点
PESの実現のためには,以下が必要ですが,とりわけ途上国では難しいとされています.
・土地利用の変化に関わるメリットとデメリット(費用対効果・トレードオフ・機会費用などがキーワードでしょうか・・・)
・生態系サービスの定量的評価
前者は,実際にお金が動くわけなので,土地利用を変化させる(例:森を切り開く)と誰にどんな影響があるかを明らかにしないと,正当化しにくいということが一例です.社会科学の専門分野だと言えます.
後者は,実際に生態系サービスはどの種類がどのくらいあるのか,ということです.「とにかくあるんですよ・・・」といくら言ったって駄目なので,「東京ドーム何個分の水を蓄えられます」とか明確さが求められます.自然科学の専門分野と言えます.
ぱっとまとめてみましたが,実際どれほど研究が大変か,ちょっとぞっとしないですね.
5.仕組みにまつわるエトセトラ
PESを制度化するうえで検討する事項として,以下も挙げられています.
・情報の偏りをできるだけなくす:情報が誰かに集中していると,その人が有利になりそうなのでやめようと.
・所有権問題,言い伝え,信念・・・:土地が関わるので,「非科学的」などと否定してはいけない.
今回は以上です.
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
2010年3月26日金曜日
K&M読みますっ!
PESと経済評価,そろそろ更新しないとな感じです.
あ,あけましておめでとうございます(今さら?).
Kumar and Muradian (2009) を読んで,「こんな感じかなぁ・・・」という程度で記していきます.
今回は第1章です.
いくつか,箇条書きにしますね.
この章のテーマは,「都市化していないところへPESをどう役立てるか」だと思います.
1.PESがどこで求められているか
2.モラルハザードと御しがたい効果
3.PESに関わる制約と限界
4.研究上の問題点
5.仕組みにまつわるエトセトラ
こんなところです.次回に詳しくまとめてみたいです(といいまして,今日は逃げます).
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
あ,あけましておめでとうございます(今さら?).
Kumar and Muradian (2009) を読んで,「こんな感じかなぁ・・・」という程度で記していきます.
今回は第1章です.
いくつか,箇条書きにしますね.
この章のテーマは,「都市化していないところへPESをどう役立てるか」だと思います.
1.PESがどこで求められているか
2.モラルハザードと御しがたい効果
3.PESに関わる制約と限界
4.研究上の問題点
5.仕組みにまつわるエトセトラ
こんなところです.次回に詳しくまとめてみたいです(といいまして,今日は逃げます).
Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.
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