2010年5月9日日曜日

ついでに第2章も(*^_^*)

続いて第2章です.

この章は研究事例が豊富で,なかなかまとめにくいので,まずは本当にざっくりと書いてみます.

公平性という言葉はFairnessに対応します.それに対して,「衡平性」という言葉を使う場合があります.これはEquityに対応します.

本書に従って,衡平性の定義と問題意識をまとめてみましょう.

1) 機会の衡平性
PESスキームにアクセスするための要件とは何なのか

2)結果の衡平性
貧しい人は豊かな人と同様にPESから恩恵を享受できるだろうか

3)能動的識別
豊かな人よりも貧しい人により恩恵を与えるスキームなのか

4)プロセス
貧しい人々も参加できるものか

とりわけ貧しい人々に関わる衡平性が問題になるのは,例えば以下のような理由に拠っています.

1)生態系サービスに所有権が設定しにくい
2)持っている技術が十分でない(産業・市場メカニズムとも)
3)市場の情報が少ない
4)市場へ参加しない・できない
5)十分な通信設備がない
6)契約に関わる諸制度が柔軟性を欠いている
7)最初に資産を持っていないと参加しにくい

実際にコスタリカで1995年にPESが導入された際に起こったことを見てみましょう.

1)制度:燃料税を集めて森林保全
2)保全面積:原生林16,500ha, 持続的森林経営2,000ha, 植林1,300,000haなどに寄与.
3)かかった費用:80,000,000US$ (当時の日本円で83億円強)
4)生じた問題:土地を持たない人が,持っている人の土地に不法居住していた(スクワッターと言っています).スクワッターは最も貧しい人々で,環境に負荷を与えやすい産業で働いていた(伐採したり,炭を作ったり・・・普通にいそうなものなのですが・・・).PESと森林保全プログラムが始まった途端,彼らは厳しく罰せられた(!?).

貧しい人々からさらにその財産を差し押さえてしまったのは,一重に法制度の未整備からであると彼らは主張します.

また,分配問題について,オーストラリアでの興味深い事例が紹介されています.

BushTenderという現生の植生を保全するための制度がヴィクトリア州で行われました(2002年より前のようなのですが・・・).

BushTenderにおいては,土地の所有者が行うべき保全活動計画を策定,政府と共同でその費用などから保全される生態系の付値を行います.

土地所有者は複数いるので,付値もそれぞれ異なり,最終的にはオークションを自然資源環境局が行って,生態系サービスの価格を決定するようです(分かりづらくてすいません・・・私もあまり分かってないので原典にあたろうかと・・・).

付値は保全費用と比例するので,同じ生態系サービスの質と量を確保できるのに,保全費用がかかってしまう方の土地はその分生態系サービス価格も高くなります.

とすると,保全しにくい土地を持っている人ほど大変そうな気がします.同じだけのサービスを確保するために,より価格の安い(したがって保全コストも低い)方へ行こうとするのは世の常です(安くてうまいものを買いたい・・・).

ですが,人々は政府当局の行うモニタリングなどが実に「公平」であると捉え,上記のオークションは自発的に行われたそうです.

メキシコの例も特集されています.

世界で2番目に森林破壊が進んでいるとみられているメキシコでは,2000年代に入ってPSAH (The Payment for Hydrological Environmental Servicesらしいんですが,個の略称はスペイン語かな・・・)が導入されました.地権者に対して国から保全対策への援助が出る,という格好です.

自然発火などで失われたところもあったようですが,土地利用の変化による破壊は防ぐことができたとのことです.

以上の事例を紹介しつつ,この章では多くの「分配問題のための考え方」を紹介しています.この章のテーマも,やはりPESの衡平性です.ざっといくつか列挙します.

・'No envy' principle (「うらやましがらない」原則):みんな同じ負担,同じ恩恵
・'Just deserts' principle(「功罪ある人だけ」原則):次の世代に持ち越さない
・最低水準原則:最低水準の所得ってなんだ,という問題あり
・予防原則:被害をひどめ,恩恵を少なめに見積もっておいて,貧しい人への影響を重点的に対策.

他にも汚染や保全の権利はすべての国にあるとするところや,市場こそが公平性を確保できるという立場まで,色々です.本章でも,語りきっていない感がありました・・・(^_^;)


Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.