2010年5月9日日曜日

K&M 第一章www

やっとまとめの作業に入ることができます(^_^;)

とりあえずは,素読して読みとれることを記します.

K&M第1章です.

1.PESがどこで求められているか

この本は,都市化の進んでいない地域(Rural)に焦点を当てています.都市化・人間活動の影響で,あまり都市化の進んでいない地域の有する生態系サービスが破壊されている,という構造は,あたかも先進国と途上国や,南北問題に象徴される「分配の不公平」ともいうべき状況をも生み出しているというところから彼らは語りだしています.

すなわち,被害を受けても補償されないRuralの住民に生態系サービスが失われていることを知らせて,認知度を高め,補償が適切に行われるスキームが必要であると.このスキームこそがPESなのです.

PESとは環境問題への対策だけではなく,実は貧困問題への対処にもなるんですね.

2.モラルハザードと御しがたい効果

というタイトルになってしまいましたが,別にフリーライダーのことを彼らは述べていません.彼らの通奏低音はここでも「公平性」であるようです.

汚染者負担原則(PPP: Polluter Pays Principle)」に照らすと,「生態系サービスを損なったものがそれへの対価を負担すべき」となり,これは外部性を内部化する(市場メカニズムなどで環境問題を解消するとしておきます)PESでも同じです.

ただ,やむなく「環境に優しくない」生活を強いられている人々に,「何が何でも払え!!!」というのは倫理的にいかがなものか,ということが彼らの主張です.いくらPESが経済学的に効率性を達成できるとは言っても,どの範囲まで市場メカニズムを適用するかは,公平性の観点や法制度に照らして検討すべきであるとまとめています.

3.PESに関わる制約と限界

人々の土地利用が生態系サービスに影響を与えている,という「因果関係」が成立するかどうか・・・.

実はこの点が一番PES実現の障害にもなりえます.

気候変動ないし温暖化問題の議論を見ても分かるように,因果関係などなどに反対意見だって出てきます.ここではその反対意見の良し悪しについては触れませんが,生態系サービスが変化するのは,何も人間活動に限った事ではありません.

遷移,という言葉があるのですが,生態系は様々な影響を受けて変化していきます.ただそのスピードが近年あまりにも速いようなので,人間活動が大きく寄与しているのだ,という研究成果が多く出されています.

しかしながら,それでも分析における不確実性(確率分布すらわからない,何が起こるかわからない・・・こわい(;_;))は解決しきれないので,PESという制度も,因果関係を示したモデルが失敗するということも念頭において柔軟に作る必要がありそうです.

加法性(Additionality),と彼らは言っていますが,例えば以下のようなことを想像して下さい.

・山の上に土地を持っているAさん・・・
・Aさんは頑張って森を守っています
・AさんはPESを利用して森を守っている分を補償してもらおうとしました
・山の裏からBさんがやってきて木を切っていることがわかりました
・PESは利用できるでしょうか?

利用できません\( ̄ロ ̄;).

つまり,確実にAさんが森の生態系サービスを増加させていることが立証されたときにのみ,補償されます.PESによって補償されるのは,Aさん効果・・・じゃなくて加法効果(Additional Effect)が本当にあるかが問われます.

それを確実にするためには,Bさんのような人をあらゆる制度と同様,「監視(Monitoring)」する必要があります.

以上が彼らの例示するPESへの障害です.

4.研究上の問題点

PESの実現のためには,以下が必要ですが,とりわけ途上国では難しいとされています.

・土地利用の変化に関わるメリットとデメリット(費用対効果・トレードオフ・機会費用などがキーワードでしょうか・・・)
・生態系サービスの定量的評価

前者は,実際にお金が動くわけなので,土地利用を変化させる(例:森を切り開く)と誰にどんな影響があるかを明らかにしないと,正当化しにくいということが一例です.社会科学の専門分野だと言えます.

後者は,実際に生態系サービスはどの種類がどのくらいあるのか,ということです.「とにかくあるんですよ・・・」といくら言ったって駄目なので,「東京ドーム何個分の水を蓄えられます」とか明確さが求められます.自然科学の専門分野と言えます.

ぱっとまとめてみましたが,実際どれほど研究が大変か,ちょっとぞっとしないですね.

5.仕組みにまつわるエトセトラ

PESを制度化するうえで検討する事項として,以下も挙げられています.

・情報の偏りをできるだけなくす:情報が誰かに集中していると,その人が有利になりそうなのでやめようと.
・所有権問題,言い伝え,信念・・・:土地が関わるので,「非科学的」などと否定してはいけない.

今回は以上です.

Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.