2010年5月9日日曜日

またしばらく更新しないので<(_ _)>

これ以降の章を一言でまとめてみます.

4章:有機農業促進の選択型実験

マーケティング分析の一つである選択型実験を用いて,環境負荷を減らせる有機農業促進に対して農家の皆さんはどのように考えているかを分析しています.有機農業は短期的に収入が下がるので,所得に拠ることがあると明らかにしています.また居住エリアも人々の考え方に影響していることがわかりました.

5章:仮想評価法による花粉媒介サービスの経済価値評価

仮想評価法(CVM: Contingent Valuation Method)で,ケニアの農業生産に不可欠な花粉媒介の生態系サービス保全に関わる経済的なメリットを計測し,貨幣価値化しています.

環境負荷に関する教育効果が重要であることを示す一方で,生態系サービスの対価として,労働などで支払う方がお金よりも受け入れられやすいことが示唆されています.

6章:自然保護地域の経済価値評価

観光客を制限している自然保護地域の利用料支払(利用税などもあるそうです)をアンケートで調査して計測しています.

どのように自然保護地域を利用し,地元の農業と両立していくか,ということについて,いくつかの政策的な対案があって,費用便益分析(CBA: Cost Benefit Analysis(英名はBenefit Cost Analysis))で費用対効果を検討しています.

7章:地下水涵養クレジット取引実験

オーストラリアのある地域では地下水が枯渇しているため,牧草などでおおうことによって地下水を快復させようとしているようです.

そこで,牧草などへの投資を行った土地所有者に,地下水涵養クレジットというものを発行して補償しようという試みが行われています.まだまだ検討しなければならないことだらけのようですが興味深い試みです.

意味は違うのかもしれませんが,カーボンクレジットをなんだか彷彿させませんか?

8章:生態系サービスのマーケティング

ここまでくると,PESというよりも営利活動ですね(^_^;)広報活動のことなども書かれています.消費者行動論体系に則って分析しているのでは,とみています.

9章:ビーチのレクリエーションにおける水質改善効果の経済価値評価

上にも出てきた選択型実験を用いて,トリニダードトバゴの住民と観光客に,水質改善プランを選んでもらうことで人々の考え方を見ようとしています.シュノーケルを使ってダイビングをする人としない人,その頻度によって環境対策への考え方が違うそうです.

10章:在来種の米に関するCVMとアグロバイオダイバーシティ

在来種の米を育てて生物多様性を守るか,それとも・・・というアンケートで経済価値を評価し,生態系サービスへの支払を推定しようとしています.

11章:旅行費用法(TCM: Travel Cost Method)によるイギリスの森林レクリエーション評価

実際に観光に行った人の行動データから,「時間をかけてわざわざいくからには,それなりの価値を見出しているのだろう」と考えて,観光地の経済価値を推定するのがTCMです.TCMでレクリエーションの需要関数を導き出しています.

12章:ツーリズムと生態系保全

旅行産業を活性化することで,森林伐採を止めようとする動きは各地であるようです.しかしながら,旅行産業はまだ,森林伐採への依存度を下げるに至っていないと報告しています.


と,以上のようにまとめますと,キーワードが見えてきます.

1)経済価値評価
PESは生態系サービスへの「支払」なので,大体いくらくらいなんだろうという疑問は当然でしょう.

2)取引
「支払」なので市場が生れるのですが,果たしてうまく機能するかどうか,ルール作りはどうすればいいかということも必要な検討事項です.

3)農業
生態系と密接にかかわっていて,なおかつ有効な方法をとれば農業から生態系保全が図れるのですが,短期的には農家さんの収入が減るので,どう制度設計するかにかかっています.

4)旅行産業
ツーリズムによる管理手法は各所で求められていて,どうすれば上手くいくか,という「ツーリズムマネジメント」は一層重要性を増していくと思います.

また時間が出来たら1つ1つ詳しく迫りたいと思いますが,生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity)の第10回会議(COP10)がもうすぐ名古屋であるので,とりあえずは以上でそれぞれの得意分野において考えていきませんか\(^o^)/

Kumar and Muradian (2009) Payment for Ecosystem Services, Oxford University Press, New Delhi.